eat kill all

色々と終わってるアラサー男が迷走するブログ

謎の感動すら覚える羽田圭介さんの変態小説「メタモルフォシス」の魅力

 作家の羽田圭介さんといえばローカル路線バスの旅なんかでお馴染みの人も多いかと思いますが、この「メタモルフォシス」はテレビでの愉快な姿からは想像できない純度100%の変態小説です

 

 

SM男の変態 メタモルフォシス

 本作は表題作の「メタモルフォシス」と「トーキョーの調教」の二本の短編からなっています。

 まず「メタモルフォシス」の方ですが、サトウというSMクラブにのめり込んでいる変態が主人公です。 

 昼間は証券会社の営業マンとして無知な老人に高額の商品を売りつけて手数料をむしり取る傍ら、夜はSMクラブに入りびたり、女王様から野外露出調教などの過激なプレイを受けて自身のM願望を満たす倒錯した日々を送っており、伝説的なSMプレイヤーであるクワシマという男の死を切っ掛けに、益々過激なプレイにのめり込むようになるのです……。

 夜の公園を黒ビキニ一丁で犬のように徘徊しながらベンチでいちゃつくカップルを無自覚な変態と軽蔑するなどサトウの価値観は大分倒錯しており、共にSMプレイを嗜む仲間達も常人では理解できない狂った嗜好を真剣に語り合うド変態だらけで、無駄に濃厚でねっとりしたSMプレイの描写と相まって読んでて頭が痛くなってきます。

 そして自分の限界を超えようとするかのように間違った方向に突き進んだサトウは女王様の黄金(ウ○コ)を食らうプレイにまで手を伸ばし、最終的には変態から変態を超えた変態変態してしまうのです。

 なにを言ってるのか自分でも分からなくなりますが、変態プレイの先にサトウが悟りを開いたかのように覚醒する様はある種の清々しさと謎の感動すら感じてしまう凄まじいエネルギーに溢れています。

 

変態お仕事小説 トーキョーの調教

 そしてもう一編の「トーキョーの調教」ですが、こちらはもSMクラブにのめり込むアナウンサーのカトウという男が主人公です。

 カトウは順調にキャリアを積み上げ妻子にも恵まれ充実した日々を送っていたもののどこか心が満たされず、その隙間を埋めるように度々SMクラブに通っていましたが、自分を調教していたマナ女王様が武内愛子という自分の教え子として現れたことで昼夜で立場が逆転する奇妙な日々が始まり、カトウの日常も徐々に調教されていくのです……。

 

 個性がないのをウリにし、中堅アナウンサーとして信頼も厚く、職務に真面目に取り組んでいたいたカトウが、夜はマナ女王様に調教されて自分の本性を露わにしていく内に、アナウンサーとして抑えていた自分が徐々に抑えられなくなっていく様子は非常にスリリングですが変態小説としか言いようがなかった「メタモルフォシス」に比べると大分まともというか無難な内容で、中堅アナウンサーの日々を題材にしたお仕事小説の中に、SMという異物が混じり込んだ変態お仕事小説とでも言った趣です。

 

 羽田さんは芥川賞狙って「トーキョーの調教」を書いたのに箸にも棒にも掛からず、芥川賞を狙わずに書いた「メタモルフォシス」の方が評判が良かったという逸話があるようですが、真面目に書いたものがあんまり受けず適当に書いたものの方がウケがいいってのはよくあることなので物書きの端くれとして共感してしまいますね。

 

www.webdoku.jp

 

めくるめく変態の世界

 小説が好きな先輩から勧められたことが「メタモルフォシス」を読んだきっかけでしたが気で頭が痛くなりそうな濃厚過ぎる内容だったものの、世の中は色んな意味で広いってことがわかる作品でした。

 そして僕も人には言えない異常性癖を幾つか抱えて生きていますが、変態の世界では僕なんてまだまだ普通でした。

 ド変態だけど自分の欲望をどこまでも追求するサトウのような人間はある意味ではストイックな求道者のようであり、馬鹿馬鹿しくて気持ち悪いけど熱量に溢れた作品と言えるかもしれません